《総評》
 設問数など若干の変更があったものの、全体としては難易度に大きく変更はなかった。各文章の主題をしっかり読み取ることが要求されているが、古文の『源氏物語』で主人公の感情の機微を理解しづらかった。また、第四問も読みやすい文章ではあるが、主題をつかみづらいものであった。一方で、第一問の評論や第三問の漢文は、過去問をしっかりやっていれば取り組みやすい問題だった。


第一問
《講評》
 科学技術がテーマの出題で、昨年より易化した印象を受ける。このようなテーマの出題は、例えば昨年度の九州大学第一問など、近年よく見られ、これは東日本大震災から6年が経とうとしている昨今の現状を鑑みれば自然だろうと思われる(実際、本文でも東日本大震災について言及があり、それを意識した出題であろうと考えられる)。各設問について、どれもやや易から標準程度の出題で極端に解答しにくいものはなかったと思われる。また、設問数も減少したため例年より短い時間で解答できたのではないだろうか。本文の内容は科学技術がテーマの文章の中でもオーソドックスなもので、類似の主張を見聞きしたことがあった受験生は解きやすかったろうと思われる。現代文はいわゆる暗記科目ではないとはいえ、基礎的な教養は身に付けておきたい。
《出題分野》
評論文
《難易度》
標準★★★☆☆


《解答》
(一)科学技術の発展は人間によって為されるが、その発展が新たな問題を生み人間にさらなる科学技術の開発を強いる奇妙な構図になっているということ。
(二)テクノロジーは行為を実行する方法を提示するもその結果の是非に関知せず、人間を是非の決断をせざるを得ない状況に直面させるということ。
(三)科学技術を応用するにあたって、その是非を判断する際に持ち出される倫理的基準は人間の想像力に基づくもので、判断を基礎づけるに足らないから。
(四)テクノロジーの発展により、不可能だった行為が可能になることで、人間はその是非の決断をせざるを得ない状況に直面し、倫理的基準を支える虚構を新たに作る必要が生じた結果、虚構を産出し続けることで生きる人間のあり方も根本的に変容するということ。
(五)a…耐性 b…救済 c…余儀


第二問
《講評》
 例年と比較すると、決して量は多くないが、一文一文の長い、難易度の高い文章である。特に、冒頭の二、三文は人物名もなく抽象的な記述が続くので、読み進めるのが困難であった。しかし、リード文にある「光源氏が結婚後の玉鬘に手紙を贈る場面」である本文五行目までたどり着けば、あとの文章は比較的読みやすい。設問の大半もこの読みやすい箇所にかかわるものであったので、最初の数行でくじけさえしなければ、まったく手の出ない問題はなかったはずだ。本文中詠まれる二つの和歌も、表現技巧・内容ともに解釈に困るものではなく、読解を妨げることはない。したがって、冒頭数行が設問の核心にかかわらないことを見抜き、うまく読み飛ばすことができれば、問二~五の配点の大きな設問に時間を割くことができた。また、源氏物語のあらすじ、重要な登場人物とその人間関係についての予備知識があれば、読みにくい前半部を理解する助けとなっただろう。
 東大では過去10年間は源氏物語が出題されていなかったが、最近のセンター試験で問われたこともあり、対策の必要を理解していた受験生も多かったのではないかと思う。源氏物語の本文を読み通すのは骨が折れるが、翻案・要約した漫画なども出版されているので、目を通しておくとよい。源氏物語はドロドロした人間関係や人物設定が既知のものとして問われやすい。単に本文を訳して解くのではなく、現代文を解くように、本文の主題を見極めて、心情や背景に気を配りながら深く読んでいこう。
《出題分野》
物語
《出典》
紫式部『源氏物語』
 構成・心理描写・自然描写に優れ、物語文学の最高峰とされる。本文で使用された『真木柱』は光源氏三十代後半の話。かつての愛人・夕顔と親友の間の娘・玉鬘が髭黒大将のもとへ嫁ぐ物語である。母親よりも美しく育った玉鬘は多くの貴人から求婚される。冷泉帝へ尚侍としての入内が決まるが、出仕直前に髭黒と突然結婚する。本文はそれによる光源氏の動揺から始まっている。「玉鬘」とは女性の美そのものである毛髪の美称。文学において、毛髪は自分の意に反して伸び続けるため「どうにもならない運命」を象徴している。玉鬘という彼女の名は、自身の美しさにより、運命に翻弄されている姿を示唆している。
《難易度》
難★★★★★


《解答》
設問
(一)ア…並一通りのものではないが
   イ…どうして申し上げることができるだろうか、いや、できない。
   オ…あなたを懐かしまないことがあろうか、いや、懐かしく思う。
(二)玉鬘が、数奇な関係であるために、光源氏と会えないことを悲しむ気持ち。
(三)右近が、玉鬘と光源氏の関係はどのようなものだったか疑問に思っている。
(四)玉鬘が、気持ちを忍ばせるため、あえて光源氏の手紙の返事を丁寧に書いた。
(五)多くの道ならぬ恋愛の虜になり、苦しまずにはいられない運命の人。


第三問
《講評》
 文章の量は例年通りで、内容は比較的読みやすいものであった。文章全体の流れは単純で、詰まることなく読み進められる。文法事項も基本をしっかりとおさえていれば理解は容易であろう。最初の状況設定と一番目の客のセリフの意味が分かると、二番目以降の客の発言内容は一番目のセリフにおける比較対象を変えただけであり、容易に推測できるはずだ。問われていること自体はシンプルであるが、本文の流れに切れ目がなく、どこまでを解答に盛り込むか悩んだかもしれない。解答欄の大きさも考えながらまとめる力が要求された。
《出題分野》
物語的文章
《出典》
劉元卿『賢奕編』
《難易度》
やや易★★☆☆☆


《解答》
(一)a…虎よりも神聖である
   b…浮かぶ雲が必要であるから
   c…雲猫と名付ける方が良い
(二)強風を防ぐ塀は風より強いため、塀の方が猫の名にふさわしいと思ったから。
(三)頑丈な塀も、鼠に穴を空けられて崩れるのを防ぐことはできない。
(四)名を変えても本質は変わらないため、名にこだわるのは馬鹿げている。


第四問
《講評》
 第四問は、小説家である幸田文の随筆「藤」からの出題である。幸田文は、「五重塔」等で知られる幸田露伴の娘であり、随筆「終焉」、小説「流れる」などが有名である。問題の形式としては、設問数は昨年度と変わらなかったが、本文の文字数はやや増加した。しかし内容は昨年よりかなり読み解きやすいもので、問題を解く際でも昨年ほど迷うことはなかったと思われる。全体として、文章のテーマは家族の思い出と結びついた草花への造詣であり、大要把握は容易であっただろう。
 設問ごとにとらえると、問一は、内容理解が正しくできれば解ける問題であった。問二は「嫉妬の淋しさ」という傍線部の表現を解釈することが、非常に厄介であったと言える。問三は、傍線部の前後両方とも汲み上げて解答を作らなければならず、自分の言葉で本文を再構築する能力が要求されたといえる。問四は、心情を「飽和」と表現する、ということを自分でかみくだいて説明しなければならず、また、本文の詩的な表現を解答として書き直さなければならなかったということも、難しいところであった。本解答においては、本文全体のテーマとなっている、草花との関わりを通じて見え隠れする筆者の父への親しみを考慮することによって、より解答に深みをもたらすように努めた。
これらを昨年度と比較してみると、昨年度は文章自体を読み解くのが難しかったが、解答作成に関しては技術があれば内容を理解しきれなくても表現をつなぎ合わせることは可能であった。本年度はそれとは対照的に、文章自体を読み解くのは容易だが、実際の解答を作るのは、内容を自分で消化しきれていないと難しかったといえる。しかし、以上のことを鑑みても、全体の難易度としては昨年並みの問題であったと言える。
《分野》
随筆
《難易度》
やや難★★★★☆
《解答》
(一)父親が、子供たちに等しく木を与えて面倒を見させたり、葉を見せて木の種類をあてる遊びをさせたりして、植物への関心を持たせようとしたこと。
(二)楽しそうに草木に親しむ父と姉に置き去りにされ、出来が良い姉に妬みを感じながらも、自分も父に気に入られるには孤独に草木に向き合うしかないという心細さ。
(三)草花に興味を抱かせるような父親の話に促されて行動することで、その魅力を自分の体で直接感じ取れ、日常の遊びとは異なる興奮がもたらされたから。
(四)藤が太陽の下、虻を纏わせ水面に花を落とすのを恍惚と感受し、五感を通して伝わるその様と傍らの父の存在が自分を満たしているのを、飽和というのだと思った。